弱虫男子
あの頃はまだ良かった。

でも、今さら戻りたいとは思わない。



彼女の記憶も細胞も

すみからすみまでほじくりかえして

全部知りたい。


自分のものにしたい。



もう引き返すには進みすぎた。



「うぅっ」


堪えたはずの声が漏れて

余計に寂しさがつのる。



頭まで布団をかぶっても

歯がガチガチ音を立てていた。



彼女の声を聞けば眠れると思っていた。



それなのに彼女からの電話一本で

俺は、穏やかに眠ることさえ


できなくなった。
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