食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
「ありがと」

バツが悪そうに姫が言う。足元ふらついてるぞ。

「飲みました?」

「うん、断れなくて。大丈夫、量カウントしてる。すぐ冷める」

と言いながらも俺の服につかまってくる。口調は冷静だから手出しにくいのかな、ふらふらしてても。

しょうがねえな。廊下の隅に寄りかからせて、店の人にもらった水を飲ませる。



「あっちでも、姫の話題で盛り上がってたから、覚悟しといたほうがいいですよ」

「言ったの?」

「俺じゃなくて、あのメガネくんがそう呼んでたでしょ」

「そうか。めんどくさいな」

落ち込んでるらしい。うなだれた。面白いな、この人。ちやほやされといてこの態度。

ほんとどっかのお姫様か。平民とご対面って感じか。




すごい美人て程でもないんだけど、雰囲気あるんだよな、としばらく見てたら、急に顔を上げた。

「え。いたの。ごめん、戻ったかと思った」

「戻んないでしょ、この状態で。大丈夫?」

「うん。ありがと。平内来てくれて助かった。武田だと怒られる」

怒られるって、おい。妬いてんだよ、わかってんのかな。



時間がかかったから、ちょっと絡んでくるやついて抜けられなくて、と適当に言っといた。

ほんとに姫って呼ばれてんのか、って先輩達に聞かれて、メガネくんはそう呼んでましたね、と答える。

香さんはすっかりペースを取り戻して、その話題は振らないでくれ、と全身で言ってる。




姫、ね。

まあ俺には手の届かないお嬢さんって感じだな。
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