食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
意外と上下関係を気にする香さんは、俺が時々うっかりタメ口きくと露骨に嫌な顔をする。

面白いなと思ってからかってるうちに、なんとなく普通にそれで喋るようになった。

他の先輩の前でやらなきゃいいって諦めてくれたらしい。



残業中に休憩取った帰り、デスクの脇を通りがかったから声をかけた。

「香さんて姿勢いいよね。なんかやってたの、バレエとか」

「そういうお嬢じゃないから。おじいちゃんが厳しいだけ。それに弓道部だから、それでかな」

「へえ。かっこいいな、弓道。袴はくんだ?」

「そ。平内の道着より似合うと思うよ」

「ないな。俺空手やってるとみんな惚れちゃうからなあ。見に来る?」

呆れた顔しつつも笑ってくれて、『いいからそろそろ仕事して』と追い返される。




この人モテるからか鈍感だからか、こういうこと言っても本気にしたり軽いって嫌がったりしなくて、やりやすい。





仲良くなってくると、俺としてはもうそんなに年上って感じもしない。

手が届かない姫っぷりも感じなくなってきた。




前に声がいいって言われたから、時々耳元で話しかける。

びっくりして飛び上がったり、耳を押さえて『やめてよ』と本気で怒ったりする。



耳を攻めたら弱いんだろうな、抱いてみたいなと思ってるのがばれたら怒るか、軽蔑されるか。



彼氏持ちだしどうこうするつもりもないけど、向こうからくれば大歓迎かな、俺は。

まあ、今のところなさそうだ、残念ながら。



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