食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
新卒で入ったこの会社は、こじんまりしたITサービス業で、評判悪くないしそこそこ実績もある。
平均年齢も低くて元気があるかと思いきや、でも伸び悩んでる。
そんな感じだ。
「最初は大手に入れ」ってアドバイスくれた先輩もいたけど、俺が大企業ってどうもぴんと来なかった。
夜に派手に騒いでるサラリーマンも結構見てきたから、逆に俺は小さいところでコツコツ働いてみたい気がしたんだよ。
もともとシステム管理で稼いでいたこの会社は、ニッチな業務システムやウェブアプリの開発に重心を移しつつある。
俺も開発に配属された。
研修が1か月あっただけで放り込まれたシステム開発は、正直まるで勝手がわからず苦戦してる。
でも勉強しつつ人がやっているのを見てマネしているうちに、少しはできるようになってきたところ。
「平内、おまえ、意外とセンスある」
と無口な先輩に言われた。
俺のことは苦手そうにしてたけど、それ以来口きいてくれる。
その人に限らず、見た目がちゃらいと最初敬遠されがちだったけど、こっちから近づいて行ったら意外と懐に入れてくれる人が多い。
まじめだけどノリはそこそこよくて、みんなで何か1つの物を作ってるって開発の雰囲気が俺は気に入ってる。
だいぶノリは違うけど、月末に『売上目標達成するぞー』ってキャバクラで全員で気合い入れるのと、似てなくもない。
一体感って言うのかな。
黒服の仕事、楽しかったな。長くやるもんじゃないとは思ったけど。
大学時代に夜の仕事が長かったから、昼間に働いて早くから遊びに行くっていうのも新鮮だ。
開発の若手は飲み好きで、会社帰りの居酒屋の座敷でよく飲んでいる。
「平内、もう終わる?帰り寄っていこうぜ」
今日も1年先輩の沢田さんに声をかけられた。