食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
やっぱり電車で帰れそうという女の子をとりあえず改札まで見送った後、ダッシュで戻って電車が発車する前に乗り込んだ。



いた。

いつも乗ってるドア付近に、香さんは座ってた。

「ごめん、俺が悪い、すいません」

とにかく謝った。どう考えても俺が悪い。香さんに余計な声かけて、あの子の気を悪くさせたからだ。

素直に謝ったのが良かったのか、香さんは明らかに機嫌を直してくれた。



なんでいつもちゃんと否定しないんだと思ってたんだけど、今日わかった。噂の内容はどうでもいいんだ、たぶんやましいところがないから。

ただ、悪意をぶつけられたことに傷ついてる。そういう人だ。



「香さんて」

と言いかけて黙った。

まっすぐ受け取りすぎだろ、かわすとか怒るとかしたら、と言おうとして、できないだろうなと思い直す。

「なんでもない、ごめん」

そう言った。





なんかなあ、守ってやりたいなと思った、柄にもなく。

俺が守るとか言ってた奴いたよな、昔。メガネの奴。

そう言わせる人なんだよな、かなわねえな。
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