食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
相変わらず浮かれてるなと思ってたところに、営業の川井さんが怒鳴り込んできた。

ああ、下が言うこと聞かなくなって来てるらしいからな、香さんに当たりに来たか、厄介だな。

営業にいた頃と同じように、やたら高圧的に変更対応を求められてる。無茶だろそれと思うけど、香さんも感情的に拒絶してて話になってない。

結局押し切られて、川井さんが出て行く。あーあ。やっちゃったな。



田代さんがフォローするのかと思って見てたら、川井さんの勢いに乗っかって香さんを詰めた。

「何年やってんの、いつまで下っ端のつもりだ」

「……すみませんでした」

川井さんには言い返してた香さんが、一言も言えずに謝って出てく。




フロアが静まり返ってた。

田代さんは何事もなかったみたいに座ってPCに向かう。俺たちの香さんになにしやがる、って空気が感じられる。

わざとか。

営業への反発よりも香さんへの同情が勝つようにってことか。あれだけへこませとけば、香さんに文句もこれ以上言いにくいしな。

厄介なおっさんだな、これはこれで。





どうしたかなと思って休憩室を覗いたら、いた。

俺に気づくと、香さんは目を背けて下を向いた。

缶コーヒー渡したら受け取ったけど、手が震えてるから開けてやった。



バカだな、あんなの真に受けるなよ。

「わざとだよ、あれ」

仕方ないから教えとく。目を上げたけど、わかってなさそうだ。まあわかんなくても、うまくいくよ。



そんなにひどいこと言われたとも思えないけど、あの人の言うことは、それだけこたえるってことなんだろうな。


上司として、だけじゃないよな、もちろん。
< 23 / 52 >

この作品をシェア

pagetop