食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
帰り際、ありがとうってわざわざ言いに来た。やっとわかったか。

「飯食いに行く?」

「行く」

香さんちの近くで飯食うのは、最近定番になって来てる。俺も歩いて帰れる距離だ。

まぁ油断させとこうと思って声かけてたんだけど、普通に楽しいんだよね、この人と話すの。



基本的に愚痴は言わないし、自分の仕事の話もそれほどしない。

俺の仕事のほうは聞いてきたりするけど、空手の試合のこととか楽しそうに聞いてくれる。

今日も会社絡みは嫌なんだろう、空手の話振ってきた。



女の子って基本的に自分の話が好きな生き物だと俺は思ってる。明らかに気に入られようとして色々聞いてくる子はいるけど、素で興味ありそうなのはやっぱり嬉しいよ。



「最近空手やってる?」

「いや、あんまり。平日行けなくてさ、練習」

「じゃあ飲んでる場合じゃなかったね」

「こっちのほうが大事でしょ」

前に言われたことを言ってみる。

お、赤くなった、珍しい。わかったか。

自分が何言ってんのか、少しは意識してくれよ。




仕事のことでへこんでるみたいだから、俺なりに褒めてみた。本音で。

丁寧な仕事してると思う。俺自身はそういうの苦手だけど、大事なことだよ、エラーを減らしてくのは。



嬉しそうにはにかまれて、しかもなんでもないふりしようとしてて、やばいマジでかわいい、と思う。





毎回送って行ってるし、普通だったらもう手を出してるけど、今回は慎重になってる自覚はある。

今気にしてるのは田代さんのことばっかりだって、わかってるしな。

武田さんが何もできなかったって言うのもこれか。

どこがそんなにいいんだよ、あのおっさん。
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