食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
そこまで言って、そろそろ香さんを探しに行く。

外階段か、と当たりをつけたらやっぱりいる。まだ涙目だ。泣いてないとか言って強がってる。

「このまま帰ろ。送ってくよ」

意外に素直に頷いたので、カバン持って来て裏口に行った。



しゃべりたくなきゃ黙っとくか、と思ったら、ほんとに一言も口きかない。迷惑してんのかと思うとそうでもなさそうで、うつむきがちにたらたら歩いてく。




通勤ラッシュが終わりきってない電車は混んでて、ドアのところでかばう形になってたからいつになく近い。

ドアに手をついて、香さんがつぶれないように守る。筋トレもうちょっとやらないとなあ。



見下ろすと、うつむいて耳を赤くしてる。まだ泣いてんのか。そのまま抱き寄せて慰めたくなる。

さすがに我慢した。でも触りたいのを抑えるのがそろそろ限界だな、俺。



俺とつきあってるって田代さんに言われたのが、そんなにショックだった?

年下がどうのこうの言ってたのは聞こえたけど。

だからって避けられるわけでもないから、ちょっとは意識しはじめたところに言われてかっとなったってとこか。



読めないな。

落ち込んでる女の子を慰めるのは得意だったはずだけど、ここで薄っぺらいことは言いたくない。




結局頑なに黙ったままの彼女を、俺も何も言えずただ隣を歩いてマンションまで送る。

何か言いたげに目をあげて、結局何も言わない。



「また明日ね」

軽く頭を撫でて、俺もそれだけで帰った。




何言っても、田代さんほどには響かないんだろ。さすがに悔しかった。
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