食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
田代さんに頼まれた資料は、何回か直されてから、リーダー会議で発表した。

リーダーレベルは、技術動向はみんな詳しい。俺はとても敵わない。でも関連ビジネスの流れは疎いから、その辺を中心にまとめる。

大半はネットで追いかけてればわかるような情報だけど、田代さんだけじゃなく、転職していった先輩とか会社やってる大学の先輩とかに相談したりもした。

田代さんに使えねえと思われるのは嫌だって意地もあるし。



リーダー達にはやたら褒められて、それはそれで居心地悪い。

田代さんが、こういう視点を持ちつつ、今後やりたいことを開発の現場から提案して欲しいって話をする。

グループリーダー達も大概乗り気だし、その下のチームリーダーの方はチーム横断で勉強会立ち上げるかって張り切ってる。

俺も手伝うらしい。




終わってから、疑問をぶつけてみる。考えてないわけないよな、この人。

「営業のほうはどうするんですか」

「それはおいおいで、考え中」

「早めに巻き込んだほうがよくないですか」

「誰入れればいいと思う?」

「ああ、川井さんとか入れると進まないけど外すと角が立つ、ですか」

「お前勘いいな。あっちには正攻法じゃ通じないんだよ」

通じないか。じゃあなんだ、奇襲? わかんないな。



「平内。お前このまま巻き込まれてて」

「いいですけど。落とし所は先に教えてもらえるんですか」

そう聞くと、にやっと笑った。



考えてあるんだろう。自分達で考えたって形にしたいだけで。

「先に聞いたらつまんないもんだよ。ひっくり返すつもりでいてくれよ」

「了解です」



俺は使い勝手のいい駒って認められたか。悪いおっさんに気に入られたって感じだよな。

まあいいか。退屈するよりいい。

巻き込まれなきゃなんにも見えてこない。
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