食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
土曜出社して、夕方に合流するって言った屋台の場所がわからない。

境内まで後輩が迎えに来ることになって待ってたら、参拝の行列に並んでる香さんを見つけた。

隣の男と喋ってる。沢田さんが言ってた奴か。しかも子どもがいるぞ、そいつ。

おい。何考えてんだよ。



視線に気づいたのかこっち見たから、そのまま見返す。

びっくりした顔してる。見られると思わなかったか。そうだろうな、俺だってこんなとこで会うと思ってない。



腹立ってきた。




「タケル先輩!」

ちょうど後輩の子が来たから、見せつけるように手を引いて歩き去った。

くそ、なにやってんだ俺、かっこ悪いな。

子連れで泊まりってこともないか。でも兄貴もいないはずだし、身内ってこともないだろ。まあ微妙な関係ってところ?



「先輩?どうかしたんですか?」

「あー悪い。なんでもない」

「さっきの人、誰ですか」

「会社の子」

「ふーん。そうなんだ」

見上げられて苦笑する。いやなとこ見られたな。

つないだ手をそのまま引っ張られ、『口止め料にあんず飴』って言われて買ってやる。



そのくせ、着いたとたんばらしやがった。

「タケル先輩が女の人と揉めてて利用されました、えーん」

「たちの悪いやつだなあ、口止め料はどうした」

「タケル先輩に口止めって襲われましたー」

もう酔ってできあがってる奴らが、かわいそうにと慰めている。

「おい、タケル。仲間内やめとけよ」

「やってねえよ。ちょっと抜ける、すぐ戻るから」



断わって今来た道を戻る。

あんず飴の隣でずっとしゃがみこんでた子、香さんといた子だった?

すごい蛍光のシャツ着てたけど、1人でいたよな。
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