食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
武田さんと付き合ってるという噂の香さんには、その後時々飲みの席で会うようになった。

たいてい聞き役だけど、よく笑う。

きわどいネタになっても動じないし、男慣れしてるというか、そこそこ遊んでるとも言われてる。




いつもの居酒屋で、同期の小林が恋愛について語ろうとか言い出して、余計なこと言った。

「平内は【差し出されたもんは、好き嫌い言わず全部食う】ですよ」

「何言ってんだよ、お前」

やめろって。俺を堕とすためだけの話題か。香さんいるからってわざとやってるだろ。



「ひどいですよね、こいつ」

「えーそう? 優しいじゃん。器が大きいんじゃないの」

からかうでもなく普通に微笑んで答えが返ってきて、小林がちょっと黙った。

と思ったら武田さんが香さんの頭をはたいた。

「そういうこと言ってるから、男グセ悪そうとか言われんだよ。考えてからもの言えよ」

「痛いよ、手加減してよ」

といつもの痴話喧嘩が始まった。



「香さんは?」

と小林が聞くと、一瞬考えて

「妻子持ちはパス」

と明るく言って、いいこと言うでしょという風に武田さんを見る。

「お前な…」

と武田さんは脱力した。




小林が他に聞こえないように、コソコソ話しかけてくる。

「この2人って結局どうなってんだろうな」

付き合っててこれだったら武田さんかわいそうすぎるだろ、と思ったけど言わない。
 
「香さんっていいよなあ、俺も遊んでくれないかな」

彼女いるんだろ、お前。
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