食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
仕様間違いの影響は、最初みんながびびった程ではなく、無事に収束した。
1日休みを取らされた香さんは、柔らかくなったって周りに言われてる。
もともときっちりしてるところに、気負いがなくなって人にものを頼むようにもなって、うまく回り出してる。
田代さんなんだよな。何言われたんだ。
「田代さんと、なんかあった?」
我慢できず聞いてみた。
「なんにもないけど、愛されてると思った」
なんだよそれ。俺に言うことか。でも吹っ切れたって顔してる。
いろいろあって、結局俺のことはなかったことになってるのかもな。自業自得だけど、何キレてたんだろうな俺。単に様子見て、真奈ちゃんに対応してればよかったってのに。
冷静でいられないんだよ、この人相手だと。
手を掴んで、あの日以来ずっと持ってた自転車の鍵を返す。
思い出せよ。
俺は忘れるつもりなんかないよ。
翌日、香さんに声かけようと思ったところに、地元の奴らの呼び出しがあり飲みに行く。
夏祭り以来かな。
「香ちゃんどうなった?」
「まだ口説き中」
「珍しいな、タケルがそんなに自分から行くの」
「まあね」
「小綺麗な上に子供好きだろ、嫁にしろ」
「なんだよ、それ」
「お前もそろそろ落ち着けってことだよ」
結婚して子供いる奴もいるから、そういう話には時々なる。
考えられないけど、俺はまだ。それどころじゃないんだよ。
仕事も女も、まだまだだよ。