食わずぎらいがなおったら。－男の事情－
せっかく仕事が落ち着いたと思ったのに、田代さんにこき使われててなかなか帰れない日が続く。

「奥さん臨月でしたよね、早く帰ったほうがいいんじゃないですか」

「産まれてからのほうが大変なんだよ。今のうちにいろいろ片づけたい」

自分の都合だけで調子いいな。まあ面白いからいいけどさ。



香さんもう１回誘ってみるかと思ってるんだけど、暇がない。

出産予定日来週あたりだっけ？それまでは田代さんに付き合って頑張るか。




休憩室で、田代さんと香さんが2人でいるところに出くわした。

今回は和んだ雰囲気だったからそのまま入ったけど、田代さんが戻り際に大丈夫だとか言って香さんの頭をぽんと叩いている。

触るなよと思ってるけど、ばれたら絶対面白がられるから顔には出さない。



香さんと２人になってから聞いてみたら、健太の妹ももうすぐ産まれるらしい。「おばさん」ってからかって呼んだら、久しぶりに笑ってくれた。



田代さんが帰れないことを気にしてるけど、香さんは気にしなくっていいんだって。

「帰るね。平内も遅くまで大変だね」

「俺も手伝ってるから、ちゃんと帰すよ」

ドアのところで後ろから追い抜きながら、衝動的に頭を撫でた。田代さんが触ったとこを上書きするみたいに。

俺も相当嫉妬深いな。



この鈍感な姫はたぶん、何にもわかってないけどな。
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