食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
出産祝いが決まって、帰るとか言いだす前に何か誘わないとなと思ってたら、香さんの友達に遭遇した。

リサちゃんか。よく話に出てくる高校の友達だ。香さんに会いに来たとこ、1度見たことある。



イケメンという噂だった旦那も現れて、なんだこの人目立つな、モデルかなんか?とつい見たら、香さんと見比べられた。

「香ちゃんはデート?」

「あ! 平内くん?」

リサちゃんに呼ばれて驚く。俺名前言ったっけ。



リサちゃんが「つきあってるんだ、よかったね」と言って香さんが動揺し始めたのを、旦那のほうが面白がってる。リサちゃんに相談したのを旦那はまた聞きしたらしい。

逃げ出そうとする香さんに、後ろから声がかかる。

「1回やったら好きになっちゃったってやつな」

「そんな言い方してないし!」

香さんが振り返って言い返したら、爆笑してる。

リサちゃんが困ってオロオロしてるから、大丈夫って伝わるように目を合わせてうなずいてみせた。




俺のシャツを引っ張って、ショッピングモール内の通路を歩いて行く。

なんだよ、そういうことか。早く言えよ、わかりにくいな。

捕まえて立ち止まらせて話しさせようとしても、下向いてろくに口きかねえ。

強情だなあ。

ため息をついた。




面倒だから車に連れてく。腹減ってんだよ、まだ1回しか食ってないんだよ。

面白いから、からかってみる。

「腹減った」

「どうしたの? 朝食べてこなかった?」

「最近食欲なくてさ」

「どっちなの?」

だんだん声に苛立ちが混ざってきた。

俺も散々振り回されてるから、多少やり返したいけど、怒らせてまた逃げられたら意味ないか。

「前はなんでも好き嫌い言わず食えたんだけど。腹減ってても、好きなもんしか食いたくないんだよ。前に1回食ったのがいいんだよね。毎日それだけでいいかなと思ってる」

さすがにわかったみたいで、俺の方見て固まってる。

「今日食っていい?」って言ったら、目を丸くして真っ赤になった。



かわいいな、やっぱり。

素直になれよ、ほんと。
< 43 / 52 >

この作品をシェア

pagetop