食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
小林が言ってた【差し出されたもんは好き嫌い言わず全部食う】ってほどには、俺だってさすがにひどくない。

入社前から同期で集まることが何回かあったとき、女の子が近づこうとして来てて、めんどくさいことになりそうだったから言ってみた。

いきなり社内の女の子に手を出す気ないから、近寄ってきたら食うぞっていう牽制だ。

しっかりした感じの子が多いから、これでたぶんチャラチャラした対象外の男ってことになるだろう。



小林が先輩達いるところで蒸し返すのは想定外だったけどね。







開発フロアの休憩室に1人でいるのを見かけて、後ろから声をかけた。

「香さん」

やけに驚いたように振り向いて、見上げながら言う。

「あれ、平内も残業?」

「ですね、香さんも?」

「うん」

また営業で怒鳴られでもしたのかな。元気ないな。




「平内は、声がかっこいいよね。言われる?」

唐突に言われて面食らった。

「いや、あんまり」

「そっか」

なんだか嬉しそうな顔をして、『またね』と手を挙げて出て行った。




声?

言われたことあったかな。



顔についてはいろいろ言われるけど、面と向かってかっこいいと言ってくる子は、相当自分に自信があるか、俺に気があるのかどっちかだ。



気があるようには見えないよなあ。
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