あの夏に僕がここへ来た理由
「どんな事情があるかは知らないけど、あなたは良い子だよ。
お母さんがしっかり育てたのが見れば分かる」
サチはそう言うと、また厨房へ戻って行った。
「ありがとうございます・・・ありがとう・・・」
海人は頭を下げたまま、嬉しくて涙が溢れ出るのを抑えきれなかった。
時代は違えども、海人は母から厳しく育てられた。
人間、何事も一生懸命に取り組めば、人は必ず分かってくれる。
父がいない家庭環境の中、母はその事をいつも海人に言って聞かせた。
海人はそんな母に育てられた事を、心から感謝した。
その日の夕方、海人は裏庭に干していた布団を中へ取り込んでいると、海人を呼ぶサチの声がしたので急いで玄関へ行ってみた。
すると、そこにさくらが立っていた。
サチは「お客さんだよ」と言って奥の部屋へ入って行った。
海人は驚きのあまりに、さくらに声をかけることができずにいた。