あの夏に僕がここへ来た理由
今まで花火のせいで明るかった神社の境内は、薄っすらと物悲しい暗さが漂い始めている。
ひまわりが急いで帰ってみると、二人が座っていたはずの場所には誰も居なかった。
ひまわりはきっと海人はトイレに行ったのだと思い、しばらくそこで待っていたが海人が帰ってくる気配はなかった。
花火の終わりを告げるアナウンスが流れ、人の波が出口へと向かう中、ひまわりは必死に海人を捜し回った。
具合が悪くてどこかに座り込んでいるかもしれないと、境内の隅々まで見て回った。
男子トイレの中まで入って捜した。
だけど、海人は、どこにもいなかった。
ひまわりは誰もいなくなった神社の階段に腰掛けて、大きな声で海人を呼んでみた。
呼んでも、呼んでも、木々がこすれあう音か、虫の鳴き声しかしない。
ひまわりは元来た道をとぼとぼと引き返しながら、この現実をまだ把握できずにいた。
きっと、はぐれて先に民宿に帰ったのかも・・・
ひまわりは必死に自分にそう言い聞かせた。
民宿の前に着いた時、サチが入口に立っているのが見えた。
「海人さん、帰ってきてますか・・・」
ひまわりはサチを見たら堪えきれず、泣きながら尋ねた。
サチは涙を浮かべながら首を横に振った。