あの夏に僕がここへ来た理由
忘れるということ
「ひまわり、今日は誕生日だから、東京駅の丸ビルの前に7時に待ち合わせよ。
遅れないでね」
母の好子はそう言って、仕事へ出かけて行った。
昨日からの寒波で、外は大荒れの天気だった。
好子に言わせれば、今日は雪になるとのことだ。
ひまわりはベッドから出る気になれず、天井を見つめながらまた海人のことを思い出していた。
あっという間に冬になり、今日で私は20歳になる。
海人と同じ年になるということ・・・
海人を置いてきぼりにして、私はどんどん年を取っていくのだろう・・・
八重歯がこぼれる笑顔の海人は、19歳の私を愛していたのに・・・
ひまわりは、丸ビルの前で行きかう人々の顔をずっと見ていた。
こうやって、無意識に海人を捜してしまう。
もう一度奇跡が起こらないか、毎日、それを願いながら・・
そして、冬になってもひまわりの髪は、海人からもらったひまわりのゴムで結ばれていた。