あの夏に僕がここへ来た理由




海人は庭へ出て空を見上げ、太陽が高くなる前に仕事を始めた。

さくらはここに来たのはいいけれど、庭いじりをするには見合わない恰好をしている。


「ひまわりさんが、そこの上着を着るようにって言ってたよ」


海人はそう言ったが、さくらはその上着を見もせずに庭へ降りてきた。


「ひまちゃんは出かけたの?」



「本を返しに図書館へ行くって」



「ふ~ん、そうなんだ。

そういえば、昨日のひまちゃん、少し様子が変だったよね・・・

なんかちょっと怖かった」


海人は何も言わずに黙っていた。


「海人さん、ひまちゃんは聞いちゃだめって言ってたんだけど、本当に記憶喪失なの?」


海人は黙り続けた。



嘘はついているけれど、あながち海人の状況は嘘でもなかった。

今の事を何も知らない・・・
それが今の僕の現実だ・・・







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