遅咲きの恋
「お前には……言えない……」


絞り出す様な声。
それはどこまでも震えていて。
私は何も考えられなくなった。

稜也はいつも、無表情で。
嬉しい時も、哀しい時も。
それほど感情は表に出してこなかった。

でも今は……。
哀しさが滲み出ていて。
いつもの稜也とは全く違うんだ。


「りょう……や……?」


彼に手を伸ばそうとするけれど。
ピタリとその手は止まった。

別に何かがあった訳じゃない。
でも、分かるんだ。

彼の背中が私を拒絶している。
私の存在を受け入れてはいないのだと。


「……私……帰る……」


弱虫な私は稜也を置いて逃げるんだ。
全てから目を逸らす様に、ソファーに置いてあった鞄を掴もうとする。

だけど、その手は鞄の取っ手に届く前に。
貴方の手に持って行かれた。
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