遅咲きの恋
背中から感じる温もり。
耳元で聞こえる貴方の吐息。
力強いその腕。

全てに胸が高鳴って、頭の中を真っ白にさせる。

稜也に抱きしめられている。

それが分かった今、私には何が出来るだろうか?

振り払う事も、貴方から離れる事も。

何も出来なくて。

ただ貴方の腕の中で固まっていた。


「行くな……頼むから行かないでくれ」


震えた貴方の声が。
何を表しているかなんて分からない。

力強く抱きしめている腕が。
小刻みに震えている理由も知らないけど。


「……分かった。ココにいる。
……だから泣かないで……」


稜也の顔は見ていないのに。
貴方が泣いている事は分かってしまった。

その哀しみが、少しでも和らぐように。
私はお腹に回った腕を優しく握った。

もう泣かないで。

貴方が泣くと。

私まで辛いの。

ぎゅっと縮まる心臓も。
熱くなる目頭も。
震える唇も。

どうしようも出来なくて。
ただ背中の温もりを感じていた。
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