遅咲きの恋
どれだけそうしていたのかは分からない。

でも、目の周りがピリピリして。
頬には濡れた形跡が残っていた。

未だ抱き合ったままの私たち。

沈黙の空気を破ったのは貴方だった。


「……どうして……」

「稜也……?」


彼の低い声。

いつもよりずっと低くて。

思わず目を見開いてしまう。

だって、貴方の顔は辛そうに歪んでいたから。

誰が見ても。
辛い、と分かる顔。

こんな顔は初めてで。

やっぱり、胸がズキンと痛んだ。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか。
貴方は私の体を思い切り抱きしめるんだ。


「どうして俺じゃないんだ」


切ないその声は静かな空間に落される。

何も言えなかった。

その言葉の意味が分からないでいたかった。
でも、私には分かってしまったんだ。

貴方のその涙の理由が。
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