遅咲きの恋
「りょ……稜也……?」


さっきまで黙り込んでいた稜也。
そんな彼が私の手首を握り何やら考え込んでいた。

痛いくらいのその力。
驚きながら見上げれば、哀しそうな目が私の目を捕らえた。

そこからは早かった。
稜也は何の前触れもなく走り出した。


「え!?亜樹!?稜也!?」

「お、おいっ!!」

「稜也……お前っ……」


翔や雅人、亮祐の声が後ろから聞こえてくる。
だけど、稜也は止まらなかった。
私の手首を掴んだまま、振り返る事なく走り続ける。


「ちょっ……どうしたの稜也!!」


何度も彼の名前を呼ぶけれど。
稜也には届かない。

すれ違う人が、全速力で走る私たちを不思議そうに見ている。

そんな光景も。
今の稜也には見えていないだろう。

こんな稜也は見た事なくて。
私はただ、一緒に走る事しか出来ないんだ。
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