遅咲きの恋
「……」

「稜也……?」


無言のまま握られた手。
すぐ隣に座っている彼の顔を見るけれど。
やっぱり何も喋ろうとはしなかった。


「……ねえ」

「……何だ」

「飲もうか」

「……は?」

「どうせ、冷蔵庫にビール入ってるでしょ?」

「……ああ」


何度も来たことがある稜也の家。
自炊している形跡は全くないのに、ビールだけはいつも切らさずに置いてあるんだ。


「じゃあ決まり!飲む!」

「……分かった」


言い出したら聞かない私。
それを分かっているからこそ稜也は何も言わないんだ。
立ち上がる為、私の手を離そうと力が緩む。
だけどそれはすぐに強く握りしめられた。


「お前も来い」

「え?いいけど……」


一緒に立ち上がって冷蔵庫へと向かう。
ずっと繋がったままの手のひら。
少し疑問に思ったけれど。
特に考える事も無く稜也の背中を見つめた。
< 9 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop