君はヒロイン
ー「……」

ざわざわする人の声。

みねの家の前には黄色いテープが張り巡らされている。

パトカーがたくさん止まって、のどかな田舎には不釣り合いな張り詰めた空気が走っている。

警官や刑事らしき人も慌ただしく動き回っている。

立ち尽くす僕に、「那智くん?」と声をかけたのは…。

「みねの……おばあちゃん」

「ここじゃ邪魔になっちゃうから、喫茶店いかない?冷たいコーヒーご馳走するわ」

「……ありがとう」

田舎にある唯一の喫茶店に、僕はみねのおばあちゃんと向かった。

ー静かな喫茶店。

この一帯は小さな村で、顔見知りばかり住んでいる。

いざドアをあける。

「いらっしゃ……藤崎さん?!と…那智くん」

みねのおばあちゃんが優しく店員に軽く会釈する。

「ちょっと、今こっちきて大丈夫なの?」

この喫茶店のマスターこと華村さんは、夫婦で経営している。

どちらもこの村に住む。

「警察の方がさっき……」

「マスター、私にはアイスのブラック、彼にはミルクティー入れてあげて」

「え?あ、はい、ちょっと待ってくださいね」

みねのおばあちゃんの言葉を察したのかマスターは僕を見て笑顔を作った。

カウンター席につく僕ら。

「みねのおばあちゃん、みねは……」

「こちらがアイスのブラック、ミルクティーはアイスでよかったかな?」

カウンターテーブルに差し出されたドリンク。

「あの」

「大丈夫、お代は気にしないでね、飲んで飲んで」

「……はい、ありがとうございます…」

古びた木材やアンティーク小物に囲まれた喫茶店には、温かなコーヒーが香る。

「ああ、おいし」

みねのおばあちゃんはコーヒーをストローで飲み、グラスを握る。

「…あの…どうして」

那智は遠慮ぎみに様子をうかがう。

「私ねぇ、ああいうゴタゴタしたかんじ、苦手なの」

「…そ、そうなんですか」

ストローを差し、那智は紅茶を飲む。

「それでね、那智君。もうはっきり言っちゃうけどみねのことは、忘れてあげてほしいの」

「…えっ?」

驚き、みねのおばあちゃんを見つめる。

「あなたを巻き込まないためにも、それがいいのよ」

みねのおばあちゃんは、寂しげに笑っていた。

「……ちょっと待って、この村で、一体なにが起きてるんですか?」

「はい、おしまい!」

手拍子でみねのおばあちゃんは流れを止める。

「美味しかった?」

有無を言わさない空気に、頷く那智。

「……はい」

「那智くんはこのままおうちに真っ直ぐ帰ろうね?途中まで見送るから」

「ありがとうございましたー」

喫茶店を出て、しばらく歩いていた時。

「那智っ!」

ふとお母さんの声がして振り返る。

「あら真崎さん」

「ごめんなさい藤崎さん…家にいてって言ったじゃないの、那智っ!」

お母さんの雷が落ち、身をすくめる那智。

「ほら、帰るわよ!ほんとにすいません、真崎さん」

「いいえ、気をつけて帰るのよー」

手を振るみねのおばあちゃん。

「……」

僕はちらっとみねのおばあちゃんを見て、すぐにお母さんの後ろを歩く。

「ー…ただいま」

「」
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