小さな花 〜あなたを愛した幸せな時間〜
ナナのカオ。


傷ついたナナの表情を見てしまった俺の心は揺れる。

もう選ぶ道はないと自分で決めたくせに。
そのくせどうにも押さえきれないほどの胸の痛み。

俺よりナナの方がずっとずっと傷ついてるかもしれないのに…。


…ナナ。

ちゃんと家に帰ったかな…
…大丈夫…だよな…?


……

でも……万が一……



その思いに俺は考えるより先に立ち上がっていた。

車のキーを手に取ると部屋を飛び出した―――。




よかった…

ナナの家の前。
見上げた2階の部屋には灯りがついていた。


あれは映画を見に行った日だった。

家まで送り届けたナナは2階のあの部屋から笑顔で手を振ってくれたっけ。
あの日、怖い映画を見た俺たち。
“怖い怖い”と連発するナナに俺が言ったんだ。
“部屋に入るまでここで待っててやるから”
そしてナナは家に駆けていった。

そして…

あの窓を開けて俺に手を振ってくれたんだ。



そんなことを思い出しながら俺は来た道を引き返す。
ついナナの家の前まで来てしまった自分が少しストーカーのような気がしてしまう。



< 201 / 416 >

この作品をシェア

pagetop