小さな花 〜あなたを愛した幸せな時間〜
ひとり、つぶやく。



動けない。



立つことも、


そのスティックを置くことさえ、



出来ない。




うそ……


うそ……


この、私のお腹の中に、命…?





どのくらいそこにそうしてたたずんでいただろう?

ただ呆然と。

ひたすら無心で。

なにひとつ満足に考えられずに…。







「ただいまぁッ!」


玄関から元気なチカの声が聞こえた。


「ほら、靴は揃えてね。」


お母さんの声も…。



私はそれをスイッチにしたかのようによろよろと立ち上がり、トイレを出た。



「あっ!お姉ちゃん!」



チカはにっこり笑うとご機嫌でリビングに入っていった。
大好きなお菓子を手に。


それを見送ると、お母さん。



「帰ってたの?おかえり。」



…チクン。



お母さんの笑顔に胸が痛んだ。

お腹に隠している検査薬を手で覆った。



「…うん…ただいまぁ…」



曖昧な作り笑いを浮かべる私に怪訝そうな顔を作るお母さん。




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