小さな花 〜あなたを愛した幸せな時間〜
あるのはひとつだけ。

たったひとつの日常の風景。


お夕飯の始まる少し前。

ごはんの支度をしているお母さんと
寝転び新聞をめくるお父さん。


ささいなこと、小さな私にはわからない何かでケンカが始まった。

ガシャーン…!

お父さんがテーブルをひっくり返した。


「子供の前でやめてください!」


お母さんのヒステリックな声。


私は怯えて泣く。

そんな私を連れ出すお母さん。


外に出てお母さんの背中におぶわれ、近くの喫茶店に行った。


ようやく泣き止んだ私に優しい声。


「ナナ、何か食べよう?」


なぜか大嫌いなカレーを指差す。


「いいの?ナナ、カレー嫌いだよね?」


お母さんの声にいやいやと首をふる。


私はその嫌いなカレーを目の前にしてもくもくと口に運んだ。
味なんて忘れた。


お母さんは何も食べずに私のことを見つめてる。


「ママも食べる?」


私はお母さんにスプーンを差し出す。


「おいしいよー!」


そう言って…。



< 356 / 416 >

この作品をシェア

pagetop