小さな花 〜あなたを愛した幸せな時間〜

眠れない夜が明けた。


夜は明けたけど、私の心はまだ闇の中…。

“明けない夜はない”…とか言うけど、私の心の中に朝が来ることはあるんだろうか…。

この先、太陽から顔をそむけることなく生きていけるのだろうか…?



まったく寝ていないその頭でぼんやり考えた。




その朝、お母さんはいつものようにパートに出掛けた。

本当は休もうとしたようだけど他のパートさんが風邪をひいて休んでいるから休めなかったみたい。


「なるべく早く帰るからね。そしたら一緒に病院に行こうね。」


お母さんはそう言って何回も念を押した。


そのとっても悲しそうな顔がまぶたの裏に焼き付いていた。



…でも…。



ひとりで行きたかった。












「矢野さーん!」


明るい声で呼ぶ看護婦さん。

幸せそうな妊婦さんの中ではごく自然なその明るい口調も、私には煩わしい。


私はひとりで産婦人科に来ていた。


幸せそうな空気に取り残され、自分だけが深い穴の中にいるような、そんな気がした。



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