管理人は今日も憂鬱(イケメン上司と幽霊住人の皆さん)


しばらく走って、信号待ちで止まった。


ふと、背後に気配を感じた絢。


「何しに来たんですか」


映っていないミラー越しに、声を掛ける蒼真。


気付いていた。後部座席に慶子がいる。


「一緒に来てはくれないの??」


とても悲しそうに、伏し目がちで蒼真に話し掛ける。


絢はひとまず黙って様子を見た。


「私が好きだったのは、あなたよ?崇大(タカヒロ)さん」


やっぱりそうか。
なんとなくそんな気はしていた。


「……誰も、一緒には行かせられない。俺も含めてな」


「南科くんは、いらないわ」


幽霊にまで拒否された。


「相談なんて嘘。本当は話がしたかっただけ。彼が浮気してたのは本当だけど」


さっきまで晴れていたのに、急に辺りが暗くなり、雨が降りだした。


「自分の女好きは棚に上げて、私が少しでも他の男の人と話してるとすごく怒ったわ。彼も私と同じような境遇のはずなのに、道を間違えたようね」


まばたきひとつせず、唇だけが動く。


「絢さんのことは何故か助けたかったの。あいつから。南科は危険な男よ」


部屋で襲われそうだったのを助けてくれたときだ。


「あ、ありがとう……」


とりあえずお礼は言った。


「嫉妬に狂った彼に殴られた拍子に、テーブルの角に頭をぶつけて。即死だったわ。自殺って話にされてるみたいだけど」


挙げ句、事故として処理され、無縁仏として焼かれたのだ。


気の毒と言えば気の毒だ。
成仏できるはずもない。


「…ねえ、一人じゃ寂しいの。一緒に来て??」



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