僕は、花本美咲を忘れない
彼女はいつの間にか消えていた。

いつの間にか暗くなった部屋で、僕は考えた。


そして、一つの結論を出した。


【この世から悲しいニュースを消してしまおう】


そうすれば、彼女の家族も周りも、彼女を失った悲しみを忘れる時間が増えるのではないか。

どうすればそんなことが出来るのかは分からない。

僕はなんとなく、目を閉じて、この世から悲しいニュースが消えることを願い、目を開けた。


そして、親から夕食が出来たと呼ばれ、階段を降りた。

ダイニングには既に父、母、妹が揃っている。


「いただきます」


意味を考えることもないその言い慣れた言葉を口にして、僕は肉じゃがに入っているじゃがいもを口にいれた。


「あ、見て。ニュースやってる。お兄ちゃんの学校の人じゃない?」


妹の言葉に、僕は心拍数が上がったのを感じた。

そして、ゆっくりテレビを見た。


そこに映っていたのは、あの笑顔の花本美咲ではなかった。

僕が通っている学校のバレー部のキャプテンが、インタビューを受けていたのだ。

そういえばうちの学校のバレー部、全国大会に出ることになったんだった、と思い出す。


「あぁ。全国大会に出るらしいから、そのインタビューだね」

「ふーん...あ、見て見て、動物園でゾウの赤ちゃんが産まれたんだってー」


次の話題も、その次の話題も、花本美咲の事故について取り上げられたニュースは流れなかった。

それどころか、報道されるのは人々が喜ぶことばかりだ。


まさか、そんな。

本当に、僕が願ったから、それが叶ったっていうのか?


僕はその異常さに、夕飯の味さえ明確に分からないまま食べ終えて、自分の部屋へと戻った。
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