喪失の蒼
決断したのはあれから幾分経ったある春の日のこと。長年住み慣れたこの小さなアパートと好きだったこの小さな街からそっと静かにお別れをすることにした。
決断したというより、せざるを得なかった。と云えば正解なんだろう。このままずっと、ずっといられるほどわたしは強くないし強くなんていられない。
もう嘘をつき続けるのに程々に疲れてしまっていたのだ。周りにも自分にも。
アパートを引き払い、家財も勿体無いけれど全部処分した。数々の思い出だって置いて行く。手元にあるのは小さなトランクケースだけ。
…大好きだったあの人と別れたのもこんな、陽が暖かい春の日だったけな。