喪失の蒼
ガチャンと鍵を回して最後の施錠。ここの大家さんはとても親切だ。鍵もポストに入れておいてくれれば後で取りに行くからわざわざ届けなくていいよ だなんて。
有難く好意を受け取り、せめてものとドアノブに気持ちばかりだけれど茶菓子をぶら下げて置く。勿論ちゃんと礼状を忘れずに。
空を仰いでぽつりと吐く。ああ、まるで夜逃げみたいだ。
早朝の空はまだ夜と錯覚するような黒と朝日が顔を覗かせる橙が混ざり合った不思議な世界。思わず呟いて小さく吹き出す。
鳥の鳴き声は聞こえてこない。