喪失の蒼
「あ、未稀じゃん」
少し肌寒いある冬の日。ひとりで街を歩いていたわたしに声を掛けたのは忘れもしない忘れられるはずもないあの人。
「あ…、」
その隣には栗色の長い髪と小柄で華奢で笑顔が素敵な女性と、彼女の腕で小さな寝息を立てる小さな宝物。
まるで全身を鈍器で殴られたような衝撃で上手く呼吸が出来なかった。
「ひ、久しぶり。結婚….したんだ….」
これだけを言うのに随分と時間が掛かってしまった。