びいだま。
どこからか、軽やかな風鈴の音が聞こえてきた。
「風、ふいてないのに……」
荷物を整頓している中、ふと顔を上げた。
僕の部屋となったのは
広い屋敷の2回、すこしキイキイとなる階段を登って
手前の2番目の部屋だった。
そこは、和室の続く昭和漂う1階とはうってかわって、
フローリングの床にベッドが置いてあった。
畳はダニなどを考慮してやめてくれたらしい。
「……」
なにもかもが違う。
新しい場所っていうのは大抵不安になるものなんだろうけど、
どうしてだか、ここは落ち着く。
母さんの故郷であると同時に、
今日からは僕の帰る場所。
気がつけば太陽は半分海に沈み
ゆらりと揺れる白いカーテンが
オレンジに染められていた。
窓からは夕凪の海が見え、
なんでだかわからないけど、
懐かしい思いでいっぱいになった。
きっと明日の朝目覚めても、
東京の家を恋しくは思わないだろう。
「……」
木の窓から見える夕日に染め上げられた空に
母に包まれているような不思議なぬくもりを感じて
僕の意識は途切れた。