その背中、抱きしめて 【下】



スポーツテスト当日。

保健室での身体測定が終わって体育館へ向かう。


握力や背筋を測定してから垂直飛びの場所へ行くと、ちょうど高遠くんがいた。


(そういえば、去年もここで高遠くんに会ったな)


去年は私の測定の最中に高遠くんが前田くんと来て、アドバイスしてくれた。

あの頃は高遠くんぶっきらぼうで、抑揚ない声で一言二言しか喋らなかったよね。



「高遠くん」

ジャージの袖をくいっと引っ張った。


「先輩」

今はあの頃と違う。

呼べば優しい笑顔を返してくれる。

ぶっきらぼうじゃない、優しい声で返事をしてくれる。


「あ、もしかして翔の彼女サンだ!」

高遠くんの肩越しから男の子が顔を出した。

「初めまして、早瀬光太郎(はやせこうたろう)です。翔の言ってた通りカワイイっスね」

「いや…そんなことは…」


(高遠くん、どんな話したの?)


高遠くんを見上げると、私の視線に気づいてそっぽを向く。

(もう…)


「先輩、これから?」

「うん。高遠くんは?」

「これから」


早瀬くんが先に測定して、すぐ高遠くんが呼ばれる。

高遠くんが私たちから離れて言ってから

「高遠くんって、ちゃんとゆずにタメ口で話すんだね」

って、さくらちゃんがすっごく意外そうに呟いた。


「うん…いつからだったかな、敬語なくなったんだ」

高遠くん、私の他に誰かがいる時は必ず私に対しても敬語で話すから、さくらちゃんにとっては高遠くんのタメ口って珍しいのかもしれない。



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