その背中、抱きしめて 【下】



高遠くんが壁に近づくと、いつの間にか人だかりになったギャラリーから黄色い歓声が上がった。


「おぉ…ほとんど1年女子かな。すごい人気だなぁ、高遠くん」

私はまるで他人事のように呟いた。


「そういえば、昨日だったっけかな。1年女子たちが高遠くんと内村さんが別れて高遠くんがフリーになったって大騒ぎしてたから、思う存分キャーキャー騒いでるんじゃない?あんな内村さんなんかより、ゆずっていうれっきとした彼女がいるとも知らずに呑気なもんだよ」

さくらちゃんが黒い笑みを浮かべる。


黄色い歓声にビックリしてるうちに、高遠くんの測定が終わって私が呼ばれた。

壁に平行に立って腕を上に伸ばす。

そして膝を曲げて踏み込んでから思い切り飛んだ。


高遠くんの時とは違う驚きの歓声が上がるのが聞こえた。


2回飛んで、84cmと85cm。

去年より2,3cm伸びてる。

やっぱり部活でゲームに参加してる成果なのかな。


人だかりをかき分けて外側に出ると、高遠くんと早瀬くんが待っていた。

「去年より飛んでんね」

高遠くんの顔が少しほころぶ。

「最近スパイク打ってるからかなぁ。高遠くんいくつだった?」

「85と86」

「あー1cm負けたー。敵わないのはわかってたけど、なんか悔しー」


高遠くんに勝てるのってないんだよなぁ。

1コくらい勝ちたいのになぁ。


「女子でその背でそんだけ飛ぶヤツなんて、日本のどこ探しても先輩しかいないよ」

そう言って高遠くんに頭をポンっと叩かれた。



「ちょ、翔!頭ポンって…!」

早瀬くんが顔を赤くして片手で口を押さえてる。

「お前そういうことするキャラ!?普段あんなに愛想ないのに!?彼女に対するギャップすげ…」


それを聞いて、私も高遠くんも真っ赤になったのは言うまでもない。



< 103 / 131 >

この作品をシェア

pagetop