その背中、抱きしめて 【下】
珍しく私の方が先に校門に着いた。
ドキドキ…というよりも胃がきゅうっと痛くて、胸がぎゅっと締め付けられて、心臓が苦しい。
(うー…早く不安を晴らしてほしいような、でも怖いからまだ来ないでほしいような)
2つの感情がごちゃまぜになって、私はどうしたいのか、高遠くんにどうしてほしいのかもわからなくなる。
大きくため息をついて、しゃがんで膝を抱えた。
「先輩」
その声に反射的にビクッと体が硬直した。
「なに怖がってんの?」
差し出された手を握り返して立ち上がる。
「なんか…衝撃的な話をされるのかと思って」
「何で。しないよ。どうしてそうなるかな」
高遠くんがぷはっと笑う。
「だっていつも一緒に帰ってるのに、あらたまって一緒に帰ろって言われたら何か特別な理由があるのかと思うじゃん」
違かった。
怖がるような話なんてなかった。
内村さんのことじゃなかった。
よかった…。
「先輩?…ちょ、何で泣いてんの」
だって本当に怖かったんだよ。
この間の内村さんのこと、本当に辛かったんだよ。
またあんな辛い思いしなきゃいけないのかと思って
今度はどんな辛いこと言われるのかと思って
部活の休憩後から本当に怖かったんだよ。
その怖さと不安から解放されたら、涙腺が一気に緩んで…。
「何もないよ。怖がることないのに。ただ一緒に帰りたかっただけだよ」
高遠くんに歩きながら頭を抱き寄せられて、安堵と幸せでまた涙が大量に溢れた。