その背中、抱きしめて 【下】
決死の覚悟で呼んだのに。
「聞こえないよ」
「いじわる」
「だからもっかい呼んで」
意地悪な顔から優しい顔になった。
本気の『お願いモード』の顔だ。
私が高遠くんのお願い断れないの知ってるくせに。
…いや、知ってるからこの顔するんだ。
(確信犯め…)
「翔」
名前を呼んだら
「なに、柚香」
衝撃的な返事が優しい笑顔と一緒に返ってきた。
「……っっっ!!!!」
あまりの恥ずかしさで脚の力が一気に抜ける。
私はそのまま膝から地面に崩れた。
「先輩っ!?」
高遠くんが慌てて私の腕を掴んで引き上げる。
「なに、どうした?」
私は顔を覆って
「恥ずかしくて死にそう…」
って声を絞り出すのが精一杯だった。