その背中、抱きしめて 【下】
こんなぶっ飛んだ子、漫画の中だけの設定でしょ。
普通いないでしょ!
信じたくないけど目の前にいる子は、あからさますぎる超”ぶりっ子”で、あからさますぎる”高遠くんラブ”女。
直感的に彼女を『危険人物』認定する。
なりふり構わず高遠くんに近づく系だ。
どんな手を使っても私を遠ざけようとするだろう。
取られるの?
高遠くん取られちゃうの?
(ぶりっ子に取られてたまるか!!!)
今までにないほどの怒りと対抗心で、はらわたが煮えくり返るのが分かった。
私と麻衣ちゃんで、新1年生たちに部活の説明をする。
高遠くん目当ての内村さんは、そんな説明も聞かずにずっと高遠くんを見つめてる。
(ほっとけ。ほっとくのよ、私!いないものと思え!)
そう自分に言い聞かせながら説明を続けていると、私の横にいた麻衣ちゃんが内村さんの目の前に立った。
「ねぇ、説明してるのに聞かないってどういうこと?」
いつもニコニコの麻衣ちゃんのこんな怒った顔、初めて見た。
「だって杏奈には関係ないもん。翔先輩のことだけわかってればいいし」
(タメ口っ!?)
麻衣ちゃんの顔がさらに険しくなっていく。
そして、ついに
「アンタねぇっ!!」
麻衣ちゃんが内村さんの胸ぐらを掴んだ。
「麻衣ちゃん、ストップストップ!」
急いで麻衣ちゃんを後ろから羽交い絞めにする。
気持ちは痛いほどわかるけど、暴力はだめ!!
「ゆず先輩、離してください!この女、口で言ったってわかんないんだから!」
「それでもダメだよ!麻衣ちゃん落ち着いて」
私だって引っ叩いてやりたいくらいだよ。
公私混同かもしれないけど。
でも、それはだめなんだ。
理不尽だけど、わかって…麻衣ちゃん。
麻衣ちゃんが抵抗をやめた。
それでも目には怒りの色が濃く残っていて、それは必死に涙を堪えてるようにも見えた。