その背中、抱きしめて 【下】



今の騒動でみんな練習を中断して、こっちに注目してる。


声を荒げないように自分に何度も何度も言い聞かせて、私は口を開いた。


「内村さん、うち男子バレー部なの」

「知ってますよ。バカにしてるんですか?」


喧嘩腰に返される。

それでも売り言葉に買い言葉にならないように、”平常心”って何度も心の中でつぶやいた。


「高遠くんだけの部活じゃないの。マネージャーは誰か一人を贔屓しちゃいけないの。全員が一生懸命やってるんだから、全員に平等に接しないといけないの」

「だから、杏奈は翔先輩のマネージャーって言ってるじゃないですか、さっきから。聞いてました?」


どこまでも自己中で挑戦的な言葉。

平常心でいようと心掛けたけど、平常心でいられるわけがなかった。


「そういう考えだったら、男バレには入らないで。高遠くんに近づきたかったら部活以外で近づけばいいでしょう。一生懸命やってる部員に失礼で迷惑。中学はそういうおままごとみたいな事が許されたかもしれないけど、うちの部今年は全国目指してるから浮わついた気持ちで入ろうとする人はいらない」


言った。

言い切った。

…と同時に…


(言っちゃったーーーーーー)


激しい自己嫌悪に襲われる。


間違ったこと言った覚えはないけど、いきなりコレは高圧的過ぎたかも。

でもこの子、このくらい言わなきゃわからないと思うし。



(あぁでも冷たい空気が流れてる…誰か助けて)



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