その背中、抱きしめて 【下】
「内村」
高遠くんが彼女の名前を呼ぶ。
「うちの部のマネージャーの仕事ができないんだったら入部すんな。お遊びの延長で来たんだったら、一也の言う通り迷惑だ」
静かでゆっくりとした喋り方だけど、有無を言わせない凄みがある。
高遠くんの言葉に、彼女は目に大粒の涙を溜めて体育館から走って出て行った。
「すいませんでした。練習続けましょ」
今度は高遠くんが周りに頭を下げて、コートに入った。
「ゆず先輩、もうあの子来ないですかね。私、ほんと無理です!」
麻衣ちゃんが怒りに震えた声で私に話しかけてきた。
「どうかなぁ。周りが何も見えないほど高遠くんのこと大好きみたいだし、諦めないかもしれないね」
…何で私、こんな他人事みたいに言ってるんだろう。
高遠くんを狙われてるのに。
でも、それも嫌だけどそれ以上に内村さんの男バレを蔑ろにするような言葉と態度が気にくわない。
「だけど高遠くんを追ってくるのはいいとしても、マネージャーの仕事ができないなら私も来ないでほしいよ」
「翔くん狙われてるのに、ゆず先輩あんま焦ってないですね。彼女の余裕ってやつですか?」
麻衣ちゃんがちょっと驚いたように聞いてくる。
「余裕なんかじゃないよ。取られちゃうかもしれないしね。でも私が足掻いたところで、選ぶのは高遠くんだから」
そう。
全ては高遠くんの気持ち次第。
私はただ、いつも通りにしてるだけ。
それしかできないもん。