その背中、抱きしめて 【下】
「拉致られたようなもんですけどね、お察しのとおり」
若干涙目になった桜井くんが首をさすりながら、事のいきさつを説明する。
「途中で体育館から消えたからてっきりもう帰ってるかと思ってたんですけど、俺と慎一と翔先輩と3人で部室から出てきたら待ってたんですよ、あいつ」
内村さんが体育館から出て行ったのは結構前だった。
3時間近くも待ってたってこと?
その根性に脱帽した。
今度は相川くんが話を続ける。
「それで、どうしても翔先輩と帰るって聞かなくて。翔先輩がゆず先輩待ってるって俺ら知ってるから、何とか連れて帰ろうとしたんですけど全然聞かないし翔先輩にしがみついて離れないしで…」
相川くんが疲れたようにため息をついた。
「てか、しがみついてって聞き捨てならないんだけど」
女バレ2年生たちの目が光る。
「うちらだって簡単に翔くんに触れないのに、ってか触っていいのはゆず先輩だけなのに、しがみついてって何!!馴れ馴れしすぎんじゃないの?どうなのイケメンコンビ!!」
(いや、そんな…触っていいとか悪いとかは…)
女バレの2年生はみんな元気がいいのは前々からわかってたけど、内村さんのことになるとヒートアップしすぎる。
桜井くんが女バレ2年生に圧倒されながらも説明を続けた。
「中学ん時からそうなんですよ。とにかく翔先輩にべったりで。翔先輩も迷惑そうにはしてましたけど、あまりにしつこいから面倒くさくてほっといてたんです。そしたら何を勘違いしたのか余計にまとわりつくようになって」
内村さんが高遠くんにべったりしてるのを想像した。
きっと彼女のことだから、腕組んだり抱きついたりしてたんだろうな。
私あんまりそういうこと出来ないから、ある意味素直にそういうこと出来て羨ましいな。
(でも、高遠くんにくっつかれるのヤダ…)
あれ…?
すっごいモヤモヤイライラする。
そういう場面を直接見たわけじゃないのに、考えただけで嫌だ。