その背中、抱きしめて 【下】
隣の部室の壁にもたれ掛かった高遠くんは、腕組みして難しい顔をする。
「何で同中の奴ら揃って先輩に慣れ慣れしいんだかな…」
面白くないのかな、相川くんと桜井くんが私と仲良くするの。
(自分が2人を私に紹介したのに…)
なんだか高遠くんが可愛く見えてしまう。
清水くんは高遠くんのことを独占欲が強くて重いって言ってたけど、こんなヤキモチ重いどころか可愛いでしょ!
「大丈夫だよ、好きなのは高遠くんだけだから」
手を伸ばして、高遠くんのほっぺたを両手で包んだ。
ほら、こうやって赤くなってふてくされた顔するのとか可愛すぎ。
最近わかった高遠くんの可愛さ。
(可愛いとか言ったら怒られるかも)
部室のドアが開いて2人が出てきた。
「じゃあ、高遠くんとネット張ってくれる?」
誰もいない、電気もついてない体育館は静かで、鉄柱を立てる”ガチャガチャ”って音がやけに大きく響く。
水銀灯が少しずつ明るくなってきた頃、ネットを張り終わった3人がパスを始めた。
(中学の頃、思い出すんだろうなぁ)
楽しそうにパス練習をする3人を見て、私まで笑顔になる。
「先輩、手ぇ空いた?」
パスしながら高遠くんが私に話しかける。
「うん、これでおしまい」
今できる準備を終わらせて返事をする。
「じゃ、ネット挟んで2対2であそぼ」
桜井くんから返ったボールを高遠くんが片手でキャッチして私を手招きする。
「お前らあっち」
高遠くんが2人を手で”しっしっ”て反対側のコートに追いやる。
「えー?俺ゆず先輩と組みたい!」
「俺もゆず先輩がいい!」
2人が高遠くんに抗議する。
「100年早ぇ」
高遠くんの露骨に嫌そうな顔を見て、思わず私吹き出しちゃった。
「…なに」
「露骨だなぁ、翔先輩」
茶化してみる。
高遠くんは顔を赤くしてそっぽ向いた。