その背中、抱きしめて 【下】
さくらちゃんと羽柴くんと桜井くんに見送られて、相川くんと並んで校門を出た。
なんだか足もおぼつかない。
自分の足じゃないみたいに、歩いてもフラフラする。
「ゆず先輩、手」
相川くんが右手を私に向かって差し出した。
(……???)
やっぱり頭が働かない。
小さくため息をついた相川くんが私の左手を握って歩き出す。
「翔先輩に怒られそうだけど、ゆず先輩フラフラして危なっかしいから」
1歩前を歩く相川くんの背中を見ながら、働かない頭がほんの少しだけ回転した。
「高遠くんは怒らないよ」
小さく呟く。
相川くんがゆっくり歩きながら頭だけ私の方に向けて
「怒るでしょ。自分の彼女が他の男に手ぇ繋がれてるんだから」
って、申し訳なさそうに少し笑う。
「怒んないよ。自分は内村さんと仲良くやってるんだから、私のことなんか気にしないよ」
他人事のように、抑揚のない声が出る。
今は、何も考えられない。
考えられないから、言葉に気持ちがこもらない。
「ゆず先輩、翔先輩のこと信じてあげてくださいよ。きっと、ちゃんとゆず先輩のところに戻って来ますから」
1歩遅い私の歩幅に合わせてくれた相川くんが、優しく笑った。
「…他の女(ひと)触った手で触ってほしくない」
頭では何も考えられないけど、心がそう言う。
心が悲鳴を上げる。
「…それ聞かせてやりたいよ、翔先輩に」
「…え?何て?」
「ううん、何でもないです。とにかく翔先輩のこと信じて待っててくださいよ。絶対戻ってくるから。それまで俺も一也もゆず先輩のそばにいますから」