その背中、抱きしめて 【下】
戻ってなんか来ないよ。
内村さんがそんなの許さないもの。
第一、戻ってくる前提で内村さんと仲良くしてるとか意味わからないもの。
家の前で相川くんが、学校からずっと持ってくれてたカバンを渡してくれる。
「ゆず先輩、翔先輩を信じて少しだけ待っててください。辛いと思うけど…お願いします」
そう言って相川くんは私に頭を下げた。
「…相川くん、頭上げて?ね?わかったから…」
そう言うしかなかった。
高遠くんのこと信じたいけど、信じる勇気がない。
あんなの見ちゃったら、信じたくても難しい。
でも、後輩に頭下げられてまで頑固になれない。
「あと、俺の言ってることも信じてください。翔先輩が戻ってくるって。俺、嘘つきませんから」
相川くんのまっすぐな目が『大丈夫』って言ってる。
この子は嘘つかない。
「わかった。ありがと」
「じゃあ俺、部活があるから学校戻ります。…6限目も間に合うかな。週末ゆっくり休んで月曜にまた元気な顔見せてください」
相川くんが笑った。
そして、歩き始めてすぐにクルっと振り返る。
「部活のことは気にしないでくださいよ。監督には羽柴先輩が言っておいてくれるし、佐古田先輩もいるから大丈夫だから」
そう言って、早足で離れて行った。