その背中、抱きしめて 【下】
「ゆずー、今日部活ないんだろ?」
LHRが終わってすぐ、洋平くんに声を掛けられる。
「うん、なくなった」
「修旅の班行動の行き先いくつかピックアップしときたいんだけど、一緒に考えてくんない?」
洋平くんがさっき各班に配られたガイドブックをピラピラさせる。
「いいよー。でも他の人にも声かけなくていいの?」
「人数多くなるとまとまんなくなるじゃん。2人でピックアップして、その中からみんなで行くとこ選んだ方がいいって」
そっか。
たしかに6人それぞれが行きたいところ出し合ってたらキリがないよね。
誰もいなくなった教室で、洋平くんと並んで座ってガイドブックを広げる。
「班行動は函館と小樽と札幌か。函館から順番にピックアップしていくか」
洋平くんがガイドブックをペラペラめくる。
「海鮮丼食べたい!」
函館といえば海鮮でしょ。
海鮮盛りだくさんの丼が食べたい。
「おま…いきなりメシからかよ」
洋平くんが笑った。
「食べるのだって修旅の楽しみだもん」
口を尖らせる。
「そりゃそうだけどさ。あとは?行きたいとこある?」
そう言って私の前にガイドブックを広げてくれる。
そして隣からそれを覗き込む。
(わ…近い…)
肩が当たりそう。
洋平くんの髪の毛が私の顔に触れそう。
そのシチュエーションにドキドキしてしまう。
洋平くんのこと特別好きなわけでもないのに。