その背中、抱きしめて 【下】
「んー。そろそろ帰るかー」
洋平くんが大きく伸びをする。
「行きたいところ、けっこう出ちゃったね。絞るの大変かも」
ガイドブックを見ながら行きたいところをどんどん書いていったルーズリーフは数枚になった。
「なるべく多めに回れるといいよな。分刻みのスケジュールにしてさ」
「それすっごい下調べしなきゃダメそう。電車とかバスの時刻表とか」
「近くに時刻表鉄とかいねーかなぁ」
洋平くんはおもしろい。
ポンポン楽しい話題を出してくれる。
(修学旅行、楽しくなるかも)
新しいクラスは楽しい。
クラスの誰かといると、高遠くんと内村さんの嫌なこと忘れられる。
洋平くんと話しながら昇降口まで行くと、高くて耳に障る甘ったるい大きな声がした。
一瞬のうちに嫌悪感を覚える。
足が止まって動かなくなる。
「ゆず?」
洋平くんが気付いて振り返る。
やだ。
やだ。
やだ。
内村さん
見たくない。