その背中、抱きしめて 【下】



げた箱まで行けば、陰になって見えないのに。


げた箱の数メートル手前で足が動かなくなる。



心配して近寄ってきた洋平くん越しに見えたのは


満面の笑みの内村さんと


内村さんに腕を組まれた高遠くんだった。





「あれー?柚香先輩じゃないですかー。お疲れさまでーす」




勝ち誇ったような声。




あなたが呼ばないで。


あなたが『柚香先輩』って呼ばないで。





下を向いたまま体が震える。

涙が一気に込み上げる。




「あれってゆずの彼氏だろ?何で…。ゆず?」


涙がポタポタ床に落ちた。

溢れ出した涙は止まらなくて、いくつもいくつも床に斑点を作っていく。




「もうやだぁ…」


両手で顔を覆った瞬間、力強い腕に包まれた。



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