その背中、抱きしめて 【下】



洋平くんが私の歩くスピードに合わせてくれて、ゆっくり駅まで向かう。


涙はほとんど止まったけど、時々”ひっく…ひっく”ってしゃくりあげてしまう。


(このまま電車乗るの恥ずかしいな…早く止まんないかな)



「ゆず、『ひっく』ってなんのカワイイね」

洋平くんが優しく笑う。

「こ、子供みたいで恥ずかしいよ…」


洋平くんは女の子の扱いに慣れてるから、”カワイイ”とか平気で言う。


「かわいいよ、ゆずは」

もう一度、洋平くんが優しく笑った。




「あの、さっきはごめんね。取り乱しちゃって…」

「気にしてないよ。あれはマジで辛かったと思うし。俺でよければいつでも胸貸しちゃるから。気を付けて帰れよ」

駅の改札を通って、反対方向の洋平くんとバイバイした。


ひとつ大きく深呼吸をしてホームへのエスカレーターに乗る。


(あ、しゃっくり止まってきたかも)

大泣きの後はいつもこうだ。

しかも学校で、よりによって男の人の胸を借りて大泣きしちゃうなんて…。

「はぁ…」

大きなため息が出た。



ホームがだんだん近づいて、エスカレーターを降りる準備のために少し上を向く。

その視線の先に釘付けになって、息をするのを忘れる。



< 61 / 131 >

この作品をシェア

pagetop